今月最終日のレッスンは、ベトナム中部の古都・フエの郷土料理でした。
その土地の名を冠する堂々とした郷土麺「ブン・ボー・フエ」。牛肉と豚肉、レモングラスなどからダシをとる汁麺です。スープはクリアながらも滋味深く、どっしりと力強いアジアの味を求めていた心身にしみわたります。
2月とともに、3月レッスンのご予約受付がスタートしました。どうぞよろしくお願いします。
毎年、1月下旬から2月初めにやってくるベトナム旧正月にあわせ、レッスンでも旧正月料理をいくつかご紹介しています。
豚肉と卵のココナッツジュース煮は、南部の旧正月料理です。ふだんはシンプルな家庭料理ながらも、幼い頃から家族で食べ慣れているものだからこそ、今年も仲むつまじく集まれますように……と心から願う1品。旧正月料理には保存性を高めるために味つけの濃いものが多く、酸味でさっぱりと口を洗う漬けものも欠かせません。この煮物には、もやしとニラの塩水漬けが定番です。
『今夜も終電ごはん』(幻冬舎)が刊行。前著『終電ごはん』から4年越しの続編で、ライター・梅津有希子さんとの共著レシピ本です。
1章 たまごかけごはんならば。
2章 続・おとうふは免罪符
3章 肉が食べたい!
4章 中華麺の可能性
5章 フライパンで野菜を食らう
6章 だしさえあれば。
目次だけでもワクワクする楽しげなラインナップ。ここには「終電ごはん」を発案、実践されている梅津さんの熱い想いが詰まっています。
【毎晩のように、終電もしくはタクシーで帰宅する編集者の夫と暮らしているのだが、そんな時間だと、外食といっても牛丼やラーメン、コンビニくらいしか選択肢がない。たまにならいいけれど、夜な夜な続くとさすがにキツいし、体にもよくはないだろう。(中略)「作らなきゃいけないから作る」という感じで、レパートリーもかなりとぼしいものだった。でも、夜中まで働く夫に鍋焼きうどんやスープを出すと喜んで食べていたので、たまには作ってあげたい。でも、バリエーションが思いつかない。】
(梅津さんのブログより引用)
以下、レシピ制作裏話をちょこっと。
個人的には、1章「たまごかけごはんならば。」のレシピ出しがとても楽しかったです。卵とお米から広がるワールドを、10種類のどんぶりに展開しました。栄養は限られてしまうし、料理というほどでないものもあるけれど、卵かけごはんには果てしない夢があります。
手軽に作れてまるっとヘルシーな豆腐料理は、前回に引き続き、終電ごはんのたのもしい味方。「ねぎ塩やっこ」や「梅きゅう納豆やっこ」などの具だくさん冷奴に加え、今回は温かい豆腐料理や、納豆を使った簡単おかずもご提案しました。スタイリストさんに何も伝えていないのに、撮影料理にビールグラスを添えられる確率が高いのは、すっかり夜は晩酌派とばれているからだろうか。
袋入り中華麺でチャチャッと作れる時短ナポリタンは、どことなく懐かしいもっちりした食感。きれいなオレンジ色にしあげるのにも、ちょっとしたコツがあります。中華麺はふだんあまりあれこれ料理しない食材なので、この章もレシピを考えるのが楽しかった!
前作のテーマカラーは黒でキリッとした印象でしたが、今回はやわらかなレモンイエローです。デザイナーさんのゆるいフォントもお気に入り。
『今夜も終電ごはん』(幻冬舎)、全国書店さんにて発売中です。前作と並べて販売してくださっているところもあるので、ともどもどうぞよろしくお願いいたします。
今年、ベトナムの旧正月は1月28日。レッスンでも旧正月にちなんだ料理をご紹介しています。
「Bun Thang(ブン・タン)」は、テト料理の残りものから作るハノイ式汁麺です。ゆで鶏、蒸しハム、えびでんぶ、錦糸卵、干ししいたけ……など、ご馳走料理から少しずつ拝借した具を細米麺にのっけ、熱々の鶏スープをかけていただきます。ハレの華やかな料理のあとには、地味ながらも滋味が胃袋にしみわたるという具合。丼ひとつに広がる繊細かつ奥深い世界は、ハノイ料理の真骨頂と思います。
京都の元旦は空気がふっくらと暖かく、穏やかでまぶしい青空が広がりました。初詣は、酉にちなんで鳩が祀られた神社へ。
鳩みくじを引きました。きゅっと心を引き締めて、今年も新たにがんばろう。
新年の料理教室は1月8日からスタートです。2017年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
12月は気忙しい日が多かったので、年の瀬も押し迫り、ようやく思考のリズムがもどってきたような感触。職種的に何日から休みということはなく、決まった仕事納めがあるわけでもないのですが、しばらくレシピとか買い出しとかを考えずにぼんやりできる日々が、ひそやかに至福の冬休みであります。
レッスンを納め、大好きな酒場にて鰤しゃぶをいただく恒例忘年会。毎年、一生分の鰤を食べた!でもまたすぐに食べたい!となるすばらしい質量。
お世話になっている方と足を運ぶ暮れのお蕎麦屋では、昨年からかき揚げおろしそば一筋。
本年もたくさんの楽しい出会いをありがとうございました。2017年も料理教室ともども何卒よろしくお願い申し上げます。どうぞよいお年を!
今年最後の料理教室は、常連様グループとのリクエストレッスンでした。
ちょうど25日、クリスマスらしいものを……とのお声があがったので、鶏肉のロティ、ガーリックライス、白身魚のディル風味マリネなど、どことなく越洋折衷のメニューに挑戦。ロティはフランス料理を真似て生み出されたベトナム洋食で、現地では白ごはんやおこわなど、お米と一緒に食べるのがポピュラーです。レッスンでは手軽に作れるベトナム式ガーリックライスを添えて、クリスマスのごちそう風にしあげました。
2016年のレッスンは無事に終了。今年も多くの方々とベトナム料理、そしてタイ料理の食卓を囲めたことを心から幸せに感じています。ご参加くださった皆さん、本当にありがとうございました。
私個人の教室仕事はもうひとがんばり。いつもはドタバタと片付けるだけのキッチンまわりを、ひとつずつ清めながら過ごす年の瀬です。
12月のタイ料理教室でタイスキ。タイスキは「スッキー」といって、タイ風スキヤキといった語感ですが、どちらかというと日本でいう寄せ鍋のようなスタイルです。
レッスンのあとに残った食材を寄せ集め、「丼スッキー」にするのが私のひそやかな楽しみです。丼スッキーは、「1人やけどタイスキ食べたいなぁ」という願いを叶えてくれる素敵な料理。タイスキの味わいをぎゅーっと凝縮したスープ春雨、というところでしょうか。
ベトナムの鍋料理は、それだけで1年分のカリキュラムが組めるくらい多彩なのですが、どれも私自身がレッスンを楽しみにしている大好きなメニューです。12月は五目鍋。鶏肉やシーフード、根菜から花野菜、葉野菜までたっぷりと煮ます。いちばん好きな具はカリフラワー、その次がヤングコーン、あさり。あくまでも具に火を通しすぎず、食感や香りを大切にするところがおいしさの秘訣。
デザートに、卵とコンデンスミルクたっぷりのベトナムプリン。側面に「す」を入れると、昔ながらの市場で売っているような佇まいになります。
教室ではストーブがどっしりと構えて冬本番。この頃は夕方5時くらいでもすっかり暗くなるので、レッスンが終わって片付けをしていると、あっというまに1日が終わるような気分です。
12月のレッスンが始まりました。
牛肉の煮込みフォーは、冬のハノイを思い出す味。うちでいちばん大きな鍋をガスコンロにのせて、かたまりの牛肉や香味野菜をきまじめにコトコト煮込んでスープをとります。トッピングはシンプルに青ねぎだけ。ローカル店の沸き立つ湯気には到底及びませんが、できあがった1杯のどんぶりを抱え、京都の路地からハノイの旧市街へひっそりと想いを馳せます。
常連グループさんたちのリクエストレッスン。月に一度、おまかせメニューで開催しています。
今月は牡蠣の土鍋ごはん、里いも団子のフライ、青梗菜のきのこソース、海藻のスープ……と、材料だけを並べてみると和食にしあがりそうな、しみじみ系ベトナム料理を作りました。柑橘や生野菜、ハーブをたっぷりいただく爽やかなベトナムの皿も大好きですが、季節の食材を見ながら決めていくこんな献立も、日本ならではの楽しみ方でおすすめです。
町家はだんだん寒くなってきたので、食卓に土鍋料理なんかがのっかると幸福な気分。いよいよ重い腰を上げて灯油を買いに行き、今週はストーブを引っ張り出さねば。
ハノイで食べたもの。
いつもの牛フォー屋の、煮込み牛肉フォーにはどっしりした安定感。
「ブン・タン」というスープ麺。淡くも滋味深い鶏ダシに浮かぶ細米麺、こまやかに裂かれた鶏肉、錦糸卵と青ねぎがトッピング。二日酔いの朝にこれほどしみわたる麺があるだろうか。どこまでも繊細なダシに朴訥とした具がハノイ麺料理の真骨頂です。
焼き肉だんごのつけ麺「ブン・チャー」は、友人が教えてくれた路上屋台を新規開拓。屋台というか、カフェの外席の一角を間借りしているようなおもしろい店構え(カフェのお客さんからも出前の注文を受けていた)。肉だんごは小さめで、焼かれたら脂がすっかり落ちてカリカリと香ばしい食感になっていて、食感贔屓の私にはとても好みのしあがりでした。
飲むたび好きになるヨーグルトコーヒーは、飲むたびに味がレベルアップしているような気がする。いちばん好きなカフェのものは、コーヒーとヨーグルトのバランスが絶妙。
ベトナムは地ビールが豊富です。これはハノイで親しまれているラガータイプ。昔ながらの、ぽってりした薄青色のビアグラスで飲むのがいいなぁ。
カリカリに揚げた塩豚は大好物のアテ。高菜漬けといただくのが北部流。
今回の旅ごはんでいちばんおいしかったのは、小さな町の食堂で食べたおかずとごはん。揚げ豆腐のトマト煮、豚肉とココナッツの煮込み、ゆでキャベツとゆで卵入りヌクマム、小さな丸なすの漬けもの。私のベトナム愛は間違いなくこういう料理たちに支えられていて、こういう食卓風景のためにもどってきたいなぁと、毎度思いながら帰路につきます。
行ったり来たりでちょうど16年、来年もまた。
ベトナム北部、中国との国境に近い標高1600mを越えた山岳の町サパ。サパ自体は歩いてまわれる小さな町ですが、そこを拠点に少数民族の人々が暮らす村へのトレッキングが人気です。
去年は黄金色の稲刈りシーズンを訪れました。今年は半月ほど遅れ、脱穀も終わってさっぱりした棚田風景。それでも視界360℃、ため息の出る美しさが広がることに変わりはありません。
のんびりと半日ずつ、2日間の山歩きを楽しみました。
牛追いは子供たちの仕事。
家鴨や鶏がせっせと歩きまわり、豚が親子で奔放に草を食むかたわらで、犬たちはのんびりと昼寝をしている。こういう風景がだんだん目慣れてくるのが、サパの好きなところ。
このあたりの里山には薬草がたくさん自生しています。今回のガイドさんは山の植物に詳しい方で、個人的にとても楽しかった。
満開だった薄紫色の野花。葉はミントのように鼻をスーッとさせてくれるんだとか。
食べれば毒だけれど、うまく使えば歯痛の薬になるという実。
アーティチョーク成長中。アーティチョークのお茶は、ベトナムでは肝臓の解毒効果がある薬草茶として飲まれています。
メオ族の葉っぱ、と少数民族の名をつけて呼ばれているサパ独特の野菜。からし菜に似たピリッとスパイシーなこの青菜は肉との相性がいい。少しレア加減で焼いた牛肉をハーブと一緒にこの青菜で巻いて食べる料理は、このあたりの郷土料理です。
ランチは、民家食堂でミックス焼きそばに舌鼓。焼きそばといってもインスタント麺だし、旨味調味料いっぱいのジャンク味なんだけど、具が新鮮な地鶏とか地野菜なものだから妙においしかった。
山を下りて、日が落ちてグッと寒くなる夕刻。きのこや豆腐、クレソンやハヤトウリの蔓など、やはり地元の食材をたっぷり煮込んだサパ鍋であたたまりました。
つづく
今回の旅は4日目に母が合流。なんだかんだで5度目のベトナムとなる母は、テキパキと飛行機に乗ってやってきた。ずっと行きたいと言っていた、中国国境に近い山間の街・サパを目指します。
旧市街にあるハノイ駅。サパへは夜行列車で向かう道中が定番でしたが、近年ハノイから高速道路が開通したことで、バスで5時間ほどでも行けるようになりました。それでも、たとえ便利に距離が縮まったとしても、電車の旅のほうが私は好きです。
ベトナムの電車の、ほんまにちゃんと着くんかなぁと不安になるくらいのんびりしたスピード。駅を出てしばらくは民家スレスレのところを走るものだから、誰かの日常生活を少しのぞけてしまったり。そして、寝不足必至の揺れとともに夜を過ごせば、目覚めの熱いコーヒーが驚くほどおいしいと感じられること。旅情というのだと思います。
夜長にワインを開けました。車窓が肴なんて、なんという贅沢。
つづく
ハノイにひとりでいるときは、決まって旧市街に宿をとります。旧市街はホアンキエム湖の北側、「36通り」とも呼ばれる問屋街で、昔からひとつの通りに同業者たちが軒を連ねます。絹、竹、皮、漢方薬、鶏……など、今では変わってしまっているところもあるのですが、通りの名にはそこに集まる業種名が付けられています。
旧市街に泊まる楽しみは、早起きして街をぷらぷら歩くこと。ハノイは断然、早朝がいい。シャッターが開きかけた問屋通りのすきまを天秤棒のおばちゃんたちが行き交い、路地にはいくつもの青空市場が立ちます。
露店の漬けもの屋さん。奥の瓶、いちばん右はらっきょう、左よっつは小さな丸茄子。その前は、なぜか衣装ケースに入って売られていることが多い高菜漬け。いずれもハノイらしい食材風景です。
ハイビスカスの花は、今が季節。お茶やシロップにしたり、お酒に漬けたりもするのだそう。
小さな豆腐工場を見学。
こちらは市場の豆腐屋さん。かたわらで店主が、開いた豆腐にもくもくと豚ミンチを詰めています。これを買って帰って揚げ煮にすれば、立派なおかずの1品に。豆腐はベトナムで全国的な食材ですが、個人的には、なんとなく北部料理やなぁという印象があります。
自転車商店も味わい深くて好きです。これが日常ならなぁと憧れながら、写真を撮って冷やかすばかりの無礼は、旅人らしい笑顔と片言のベトナム語でもって許してもらう。
散歩コースの途中で朝ごはんを食べたら、適当なカフェに座り直してひと休み。コーヒーが落ちるのを待ちながら眺める旧市街の景色は、いつもなんとなくモノクロな気分。
つづく